新・古事記

2024-01-20 18:06:00

#7

天野文は壁に向かって座った。

その正面に月詠命、その横に園が座る。

三人の指定席だ。

三人ともこの入院に飽き飽きしていた。

天野の周りには人が集い、別れ、徐々に集団が形成された。

「羅武派」

人々はそう呼んだ。

この病院に入院している全員が退院を望んでいるわけではない。

中には自分で望んで入院するもの、住所を病院に移し、一生の入院を望むもの、食べることができず、退院できないもの、認知の問題で死を待つのみの者もいた。

天野達の病棟は緊急避難的に入院してきた者が多い。

ほとんどの者たちが退院を望み、羅武派はその病棟で最大派閥となっていた。

文はコミュニケーション能力に長け、いざこざを仲裁するのがうまい。

徐々に人が集まっていた。

しかし、

羅武派のリーダーは命であった。天野はサブリーダに徹する。

何も知らず園はその席に座っていた。

その日も園は5時頃目を覚ます。

朝の水を飲み、タバコの誘惑に耐えながら6時半を待つ。

文は朝のラジオ体操のために目を覚まし、命は少し遅れて目を覚ます。

6時半、園は時間きっかりにジュースを4本飲む。

うんこを出すための乳酸飲料、ワインの雰囲気を醸した果汁100%の炭酸飲料、あとはその日の気分でコーヒーやペット緑茶などを飲み、いつもの席に座る。

文や命と少し話すと大体もよおして来る。頻繁に水を飲み体重とにらめっこ。

これを繰り返している。

この作業は現役ボクサーの原料より過酷だ。文と命はいつも園を励ましていた。

「今日もえらいね」命が園に語り掛ける。

「園さん凄すぎない!」文も園を励ます。

しかし園はタバコのことしか考えていない。

「へ、へい」生半可な返事をする。

8時、朝食が運ばれる。

体重制限は2Kg以内、園は食べるものを吟味する。

なるべく軽く、腹持ちのするもの。

そんなものしか園は食べることができない。

今日もご飯を半分残す。タバコ、水、水、タバコ、水、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

席と体重計への移動は一日100回を超す。

1g単位で水を調節しながら水を少しでも多く飲む。飲めないときはうがいで済ませ、最後に変面台に唾を吐く。

水一口ごとに体重計に乗り、緻密に計算する。

「あと100g飲める!!!」

気分は高揚する!!!

そして9時半!!!
気分は絶好調だ!!!

そう、タバコへの解放なのだ。

気分は最高潮。雪駄で猛ダッシュ。喫煙所が見えると心躍る!!!

「よう、園」みんな声をかける。
園はメビウス8mm、ショート、ボックスをフィルターまで吸う。

「3本だけ」心に決めている。

一日、ひと箱で彼の財布は干上がってしまう。

病棟に戻ると体重計に乗り、1g単位で水を飲む。

いつもの席に座る。そこには必ず文や命がいる。

いつものたわいのない会話が永遠続く。

園は思った。

幸せってなんだっけ?

あ、ポン酢しょうゆだ!